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照明デザイン賞受賞者一覧

照明デザイン賞は、光を素材とした、優れたデザイン的内容を持ち、創意工夫に満ちた作品を顕彰するものであり、近年、国内に竣工した空間に対する光環境や照明デザインにおいて、社会的、文化的見地からも極めて高い水準が認められる独創的なもの、或いは新たな照明デザインの可能性を示唆するもので、時代を画すると目される優れた作品を称え表彰するものです。

2023年 照明デザイン賞 講評

総評

 今年の応募総数は49件で、内容も住宅、医療、商業や宗教そして公共施設と多岐に渡る作品の数々であった。1次、2次審査を経て現地審査の対象となった11件を、各審査員が現地で応募者からの熱心な説明を受けながら検証を行った。最終審査では9項目の評価項目に沿って熱心に議論され、審議の結果、今回は最優秀賞の該当はなかったが、優秀賞を含めて7作品の受賞を決定した。いずれも創意工夫に満ちた素晴らしい作品であった。

(審査員長 松下美紀)

優秀賞:石川県立図書館

受賞者:
窪田 麻里(株式会社ライティング プランナーズ アソシエーツ)
村岡 桃子(株式会社ライティング プランナーズ アソシエーツ)
木村 光(株式会社ライティング プランナーズ アソシエーツ)
作品関係者:
事業主:
石川県
建築設計:
仙田 満(環境デザイン研究所)
ランドスケープ:
柳原 博史(マインドスケープ)
サイン:
廣村 正彰(廣村デザイン)
家具・什器:
川上 元美(川上デザインルーム)
展示:
水間 政典・塩津 淳司(トータルメディア開発研究所)

作品コンセプト:

 “知の殿堂との出会いに相応しい光” をコンセプトに、機能性と快適性が高次元で両立する照明計画に努めた。
弧を描いてレイヤーを成す書架への照明は、本を照らすという基本的機能に加えて、1.空間の明るさ感を作る鉛直面輝度、2.天井を照らすアンビエント光、3.キャレル照明、の総合体として存在する。エリアごとに異なる魅力の光の表情をもつ、目くるめく本との出会いの体験を演出する図書館照明計画となった。

講評:

 グレートホールと呼ばれる円形の4層吹抜閲覧空間と、その頭上を覆う青のドームがこの建物の象徴である。円弧状かつ階段状に積層する書架棚に、照明の主要な機能が集約されているのがポイントで、ここから主な空間の快適性を高める立面的な明るさと、閲覧のための機能照度および均斉度が提供されている。また、見上げたときに視界に入る青のドームと木ルーバーで覆われた天井面はアッパーライトで優しく照らし出されており、空間に心地よさをもたらしている。決して眩しさを感じさせないように配慮された計画により、来館者は本に囲まれた知の大空間をどこまでも回遊したくなるような気持ちになるだろう。一方で空間を包む大樹のような特徴的な構造フレームが埋没し、やや勿体なさを感じさせるのが惜しいところか。それを差し引いても、多くの市民が利用する公共空間に、優れた照明計画に支えられた魅力的な光環境が誕生した社会的意義は非常に高いものがある。

(戸恒浩人)

優秀賞:聖林寺観音堂

撮影:松村芳治

受賞者:
北川 典義(北川・上田総合計画株式会社)
上田 一樹(北川・上田総合計画株式会社)
藤原 工(株式会社灯工舎)
作品関係者:
事業主:
宗教法人 聖林寺
総合監修:
栗生 明(北川・上田総合計画株式会社)
設備:
伊藤 教子(有限会社ZO設計室)
設備:
竹森 ゆかり(有限会社ZO設計室)
照明設計補佐:
塚田 直喜(株式会社灯工舎)

作品コンセプト:

 奈良県桜井市、聖林寺の国宝・十一面観音菩薩立像(奈良時代)を安置する観音堂の改修・増築計画である。光に満たされた半球天井は、あまねく宇宙を象徴する「天蓋」を表現し、外陣からは御像の「光背」としての印象を与える。観音像と参拝者がひとつに包み込まれる内陣での空間体験が、末永く御像を後世へ継承する一助となることを願っている。

講評:

 奈良時代の木心乾漆像 国宝 十一面観音菩薩立像を仰ぎ見るように展示した観音堂の照明デザインである。光背のようにも見える半球天蓋の間接光は、写真資料のみでは適正照度環境であるか否かの判断が難しく、観音像の造形表現には高照度過ぎるようにも見受けられた。現地審査確認の結果、過剰照度は一切無く、前面からの投光による御像造形表現も巧みであった。半球の天蓋内面は左官の手技跡が残されており、間接光によりそれらが雲の如く僅かに揺らいで見える設えは像を更に大きく見せる効果も有した。国宝の湿温管理目的から像は無反射ガラスにより保護されているが、その設えの相応しさや周辺反射状況も現地で確認し、像を仰ぎ見る視線に障害となる光源映り込みは綿密に排除され、ガラスの存在を強く意識することが無い事を確認した。最後に当該ガラスの箱は「現代に於ける厨子である」とのご住職の御言葉が紹介され、この設えへの納得を覚えた次第である。

(水馬弘策)

優秀賞:琉球識名院

撮影:石井紀久

受賞者:
近田 玲子(株式会社近田玲子デザイン事務所)
野澤 寿江(株式会社近田玲子デザイン事務所)
株式会社豊田自動織機一級建築士事務所
作品関係者:
事業主:
無量寿山 光明寺
建築設計:
有限会社伊藤平左エ門建築事務所
建築設計:
株式会社TIS&PARTNERS
建築設計:
株式会社sngDESIGN
電気設計:
有限会社EOSplus
造園設計:
株式会社E-DESIGN

作品コンセプト:

 那覇市内に建つ浄土真宗の木造建築寺院の照明デザインでは、(1)中柱・梁のない天井垂木構造の天井を照らし、外の強い日差しとの対比を和らげながら御本尊像を際立たせる光で凛とした荘厳さを持つ本堂をつくること、(2)彼岸と此岸を区画する池泉に緩やかな曲線を描く本堂の琉球赤瓦の屋根が現実世界のものとして浮かび上がり、池の中心でひときわ強い輝きを放つ阿弥陀如来像が極楽浄土の再現を表す夜景をつくることを目指した。

講評:

 那覇市の小高い丘にある世界遺産「識名園」の真向かいに建立された浄土真宗の寺院である。内陣では8メートルの高さを持つ天井が昼間も間接照明で照らされている。これは、軒の深い日本建築様式と沖縄の強い日差しの気候の違いによって起きる、屋外との輝度差を解消させるためである。内陣の中央には1000Lxに照らされた阿弥陀如来立像が安置されている。宗教建築における光の役割は大きく、人智の想像を超えた世界観の表現が必要となるが、ここでは夜間、山門から見る輝くご本尊が中心性をつくりだし、その上には琉球赤瓦の大屋根、そして対の鴟尾が柔らかく輝いている。それら全体が本堂の前にある池に映り込み、昼と夜の光の2面性に加えて、水に映り込む2面性が荘厳さを表現し世界観を作っている。また、参拝者のみならず、道行く人からの見え方も計算し設計されたことが高く評価された。

(松下美紀)

入賞:金沢実践倫理会館

撮影:Koji Fujii / TOREAL

受賞者:
小杉 嘉文(株式会社竹中工務店)
松本 浩作(有限会社スタイルマテック)
天野 裕(ARUP)
作品関係者:
事業主:
一般社団法人実践倫理宏正会
建築設計:
上河内 浩(株式会社竹中工務店)
設備設計:
金子 研(株式会社竹中工務店)
設備設計:
杉浦 康太(株式会社竹中工務店)
照明設計:
真崎 雅子(有限会社スタイルマテック)
ファサードエンジニアリング:
松延 晋(ARUP)

作品コンセプト:

 早朝に集まることに特徴がある集会場の建替計画。複数の緑化テラスを立体的に配置した空間構成と、木漏れ日のような光を内部に導くキャストガラスをスクリーンに設けることで、日照時間が短い北陸において、特に夜明けの光の変化を体験し、光を繊細に空間に取り込むことを試みた。間仕切壁を排した館内において、自然光と照明光を組み合わせた光の操作によって、公園のように自由に居場所を見つけられる空間づくりを目指した。

講評:

 金沢の伝統的な街並みや自然光の特性にも配慮した照明計画で、ここを訪れることで体験できる光の変化となっている。ファサードに組み込まれた導光ガラスは自然光を取り入れるだけでなく、夜間は漏れ光として建物の存在感を示す効果も得られる。インテリアにおいても照明器具の存在感を感じさせずに必要な場所の明るさが得られるよう工夫され、自然光と人工光を一体的に検討された成果となっている。

(福多佳子)

入賞:LOQUAT Villa SUGURO

撮影:ナカサ&パートナーズ

受賞者:
永津 努(株式会社フェノメノンライティングデザインオフィス)
井上 裕史(株式会社 乃村工藝社)
大西 彩生(株式会社フェノメノンライティングデザインオフィス)
作品関係者:
事業主:
高野 由之(土肥観光活性化株式会社)
ディレクション:
小糸 紀夫(株式会社 乃村工藝社)
グラフィック:
二瓶 渉(株式会社 SHIROKURO)
ランドスケープ:
藤原 駿朗(株式会社 オリザ)

作品コンセプト:

 西伊豆は過疎化問題を解消するため、古民家をオーベルジュとして改装し、古来の建築の魅力を再発見し住民たちが誇りを感じられる文化継承のプロジェクトである。“古美と過ごす価値”を焦点に、「古と新が混ざり、人々が心通わせる場に寄り添う光」をコンセプトに掲げた。建物本来の美しさや、敷地が持つ豊かな魅力を尊重し、手を加え過ぎず繊細かつ自然なデザインは、景色・風・音・文化に包まれ一期一会の体験ができる宿となった。

講評:

 西伊豆の古民家を魅力ある宿泊施設として再生するために、細かく心配りされた照明デザインが大きな役割を果たしている。古い施設が新しく優しい光に出会うことに感動した。
 日中に自然光を浴びて輝く外の緑たち。そして薄暮から夜に外と内を結びつける植栽照明。「古美と過ごす価値」「人々が心通わせる場づくり」が事業者や内装設計者との間で丁寧に創られたそうだ。過疎化する街に照明デザインが新たな魅力を与えることの社会性も高く評価した。

(面出薫)

入賞:OMO7_大阪 by星野リゾート

撮影:稲住写真工房

受賞者:
松尾 和生(株式会社日本設計)
大山 直樹(株式会社日本設計)
吉野 弘恵(アカリ・アンド・デザイン)
作品関係者:
事業主:
株式会社星野リゾート
設計・監理:
株式会社日本設計
内装デザイン:
東 環境・建築研究所
湯屋デザイン:
岩田尚樹建築研究所
ランドスケープデザイン:
オンサイト計画設計事務所
施工:
竹中工務店・南海辰村建設共同企業体

作品コンセプト:

 大阪・新今宮エリアという存在感のある立地環境の中で、照明・建築・ランドスケープが融合したデザインにより今までにない「街ナカ」ホテルを創り上げた。都市でありながら非日常性を感じる照明計画をコンセプトに、ファサードの外装膜に溶け込んだ演出照明はプロジェクションマッピングにない鮮やかさや動きを創り出している。夏は花火、秋は舞い落ちる紅葉など日本の四季に応じた演出が訪れる人々を楽しませる空間となっている。

講評:

 新今宮駅前は、観光名所通天閣にも近く大阪を象徴するエリアの一つである。観光ホテルの外観は幾何学パターンの「白い膜」に覆われ、ガーデンエリアから建物内へと続く伝統建築からポップ・モダンを織り交ぜたカジュアル感覚のインテリアまで、トータルにスマートな感覚に溢れている。また、そこかしこに大阪キャラクターとの共存があって、来客を楽しませ惹きつけ、そして、もてなしている。照明計画も多彩であることは言うまでもなく、日が暮れると外観の「白い膜」から内蔵されたLED照明の演出がはじまる。プログラムされた光のドット絵は、周辺の賑わいと協調し、これからの大阪を表出することに貢献する。景観としてプログラムされた世界観を評価することは控えさせていただくが、意欲ある新たな構想計画、試みとして評価したい。

(五十嵐久枝)

審査員特別賞:医療法人 厚生会 福井厚生病院

撮影:川澄・小林研二写真事務所

受賞者:
藤平 真一(株式会社久米設計建築設計室)
奥井 優介(株式会社久米設計電気設備設計室)
山口 高弘(株式会社久米設計電気設備設計室)
作品関係者:
事業主:
林 讓也(医療法人厚生会 福井厚生病院)
電気設計:
小玉 敦(株式会社久米設計環境技術本部)
建築設計:
小方 信行(株式会社久米設計医療福祉設計室)

作品コンセプト:

 「あたりまえの日々に寄り添いたい」という思いを掲げ、地域のかかりつけ病院として歩み続けてきた福井厚⽣病院の移転新築計画である。⾃然豊かな⽴地に調和する丸みを帯びた建築デザインを活かし「雪洞(ぼんぼり)」のような温かみのある照明計画とした。患者さんが長い時間を過ごす病室や透析室は優しく、情報が飛び交うスタッフエリアは機能的に、夜は安らぎと癒しの象徴として、シーン毎の丁寧な光環境デザインに配慮した。

講評:

 丸みを帯びた建築デザインは柔らかな印象を与え、病室の天井と壁面とのエッジの消失させて空間に広がりを与える。長期長時間滞在者に配慮した柔らかな空間を演出する照明が評価された。天窓光が幕天井に落とす光陰の見えや、通路コーニス照明がその長手方向と重なる視線で眩しいなどの局所的課題は数点あるが、複合多用途空間が入組む病院建築でありながら、全体にわたり主たる視点では柔らかな良好な照明環境にまとめられている。

(原直也)

2022年 照明デザイン賞 講評

総評

応募総数は45作品で1~2次審査を経て現地審査の対象となったのは9作品であった。審査員が現地に赴き応募者の熱心な説明を受けながら現地審査を行った。その後の最終審査では各審査員の報告を受け活発な議論が交わされた後、9項目からなる評価項目により採点及び審議が行われ、今年は8作品が受賞の栄誉に浴することになった。受賞作品はどれも当該空間での新たな光にチャレンジする姿勢が見え、美しい光の先にある次代の照明のあり方を示唆するものであった。

(審査員長 富田泰行)

建築、空間の設計の中で照明ほど最後の完成まで正解がわからず、設計の難しいものはないと実感している。光は物資的なものではなく、相対的に決定される状態なので、とても繊細で微妙な匙加減で大きく効果が変化してしまう。全体の印象としては照明=光がそのプロジェクトにおいて可能性をどれだけ広げられたかということが大切なポイントだったように思う。地域活性に光が大きく貢献した「長門湯本温泉観光まちづくり」「金沢港 加賀五彩を纏う」。光によってその場所の魅力が増すことにより今後多くの人がこの場所を訪れるきっかけを作り出している。最優秀賞の「藤田美術館」は自然光と人工光を織り混ぜたきめ細やかな照明設計により、建築空間の魅力を最大限に活かしている。光が場所、空間などとの融合により新しい価値を生み出してくれることを今回の多種多様な照明プロジェクトの審査を通じて改めて実感した。

(永山祐子)

最優秀賞:藤田美術館

撮影:伊藤 彰(アイフォト)

受賞者:
平井 浩之(大成建設株式会社)
宮本 育美(大成建設株式会社)
作品関係者:
事業主:
藤田 武利(公益財団法人 藤田美術館)
建築設計:
渡邉 智介(大成建設株式会社)
設備設計:
菅原 圭子(大成建設株式会社)
共用部監修:
森 秀人(Lighting M)
展示監修:
会津 寿美子(株式会社トータルメディア開発研究所)

作品コンセプト:

 敷地は大阪市の中心部、明治半ばから大正期にかけて関西経済界で大きな功績を残した藤田傳三郎(1841-1912)の邸宅跡地である。1911年に建設された収蔵庫の老朽化に伴い建替えが決定された。かつて網島一帯が藤田家の大邸宅であった土地の記憶を呼び戻すべく、地域貢献への強い思いのもと、公園や道路との境界に存在していた高い塀を撤去して自由にだれでも出入りできる土間スペースを設けた。イベントや美術品の展示も出来るよう配慮した照明は調色・調光を可能とし多様な利用を想定している。南向きのハイサイドライトから光ダクトを介して取り入れる太陽光は、奥行の深い建物内部に季節・時間毎に移り行く自然を体感できる。夜の照明だけでない昼の光の制御にも注力した。日が暮れると共に浮かび上がる庇は大きな羽のように人々を迎え入れる。新たに人が集う場を作る事でより地域に根差し、街のシンボルとして開かれた美術館を目指す。

講評:

 先ず特筆すべきは、地域に開かれたユニークな施設を象徴するガラス張りで開放的な「土間」と呼ぶエントランスホールだ。「お茶やお団子を食べながら美術を通じて色々な人と交友が持てる場」と言うように、この土間には様々なイベントに対応する照明設備が設計されている。人々を迎え入れるための解放された表情は、南向きのハイサイドライトから差し込む太陽光と夜間のリニアな間接照明により成立している。昼夜共に変化するこの鉛直面照明のディテールが漆喰壁の温かさを十分に表現する。

 このような照明デザインのアイデアは展示室や離れの茶室にも行き渡っている。展示室では旧美術館の木材を再利用したユニークな天井ルーバーが空調・消火・照明設備などを飲み込む景色を創り、茶室には光ダクトを駆使した採光窓なども作られている。

 この積極的で精緻な光のデザインは、建築意匠と照明設備の統合による建築照明デザインの真髄を、余すところなく示すものとして高く評価された。

(面出薫)

優秀賞:金沢港 加賀五彩を纏う

写真提供:石川県金沢港湾事務所

受賞者:
近田 玲子(株式会社近田玲子デザイン事務所)
野澤 寿江(株式会社近田玲子デザイン事務所)
高永 祥(株式会社近田玲子デザイン事務所)
作品関係者:
事業主:
石川県
企画:
石川県土木部港湾課
設計監理:
石川県金沢港湾事務所
建築設計:
石川県土木部営繕課
建築設計:
株式会社浦建築研究所
設備設計:
アルスコンサルタンツ株式会社

作品コンセプト:

 クルーズターミナル新設に伴い、新たな観光資源の創出を目的に計画された金沢港ライトアップのコンセプトは『金沢港 加賀五彩を纏う』。伝統工芸の加賀友禅に用いられる「加賀五彩/古代紫、燕脂、藍、草、黄土」の5色を基本に、湾を囲む様々な施設を光で結び、全長4kmにわたるダイナミックな光の動きと共に港の大きさを実感するプログラムで、夜間に訪れる人の無かった港は地元の人々に愛される新たな名所となった。

講評:

 金沢というと、JR金沢駅の東口側に「加賀百万石」を背景に開けた、北陸の代表的な文化都市というイメージがある。そんな金沢駅の反対側、西口から15分ほどレンタカーを走らせると金沢港が見えてくる。港湾事業の産業地として日本海へ開けた港に、海外からの豪華客船を含む、国際的な観光拠点として整備された照明デザインが評価された。

 金沢の伝統工芸「加賀友禅」の基本的な5色の光で、港湾内を廻る管理主体の異なる施設(クルーズターミナル広場・セメントサイロ・ガントリークレーン・橋・巡視船など)を、幻想的に結ぶことにより、石川県による新たな観光拠点を創出するプロジェクトである。

 施設の竣工後、世界的な新型コロナウイルス感染症の蔓延により、未だ豪華クルーズ客船の来航を果たすことが叶わず、この施設の本来の目的を達することができていないのが残念なことではあるが、既に昼夜の景観を楽しむ姿を見ることができた。更なる展開に期待したい。

(木下史青)

優秀賞:長門湯本温泉観光まちづくり

撮影:下村康典

受賞者:
長町 志穂(株式会社LEM空間工房)
熊取谷 悠里(株式会社LEM空間工房)
木村 隼斗(長門湯本温泉まち株式会社)
作品関係者:
事業主:
江原 達也(長門市長)
全体事業推進:
泉 英明(有限会社ハートビートプラン)
ランドスケープデザイン監修:
金光 弘志(有限会社カネミツヒロシセッケイシツ)
設備設計:
吉田 矢(株式会社綜合計画)
システム設計:
伊藤 貴史(ウシオライティング株式会社)
照明器具設計:
兵藤 真一郎(SD Lighting株式会社)

作品コンセプト:

 衰退した温泉地を公民の強い連携によって再生したプロジェクトで、大規模な土木改修と共に、仕組み作りから活用までを一体的に行っている。照明計画は「絵になる風景・回遊性の創出」をミッションに、温泉地全域での照明制御のもと新旧すべてのエリアをデザインしている。川や緑、既にある橋梁等この地の持つ本来の魅力を活かす夜景づくりを念頭に、季節毎のシーン変化や閑散期対策の演出なども想定した拡張性のある計画である。

講評:

 時代の流れの中で衰退しつつあった温泉地を整備し、魅力的な温泉街とするための公民連携のまちづくりプロジェクトである。その中で夜間景観の整備の重要性が当初から位置づけられ、温泉街全域の照明改修にまで広がったことで、温泉街全域を照明制御することが可能になっている。時間帯や特定日でのプログラム制御では、エリアごとに個々に光の減光や消灯、カラー演出等の制御を行い、温泉街の夜に新たな表情を加えている。

 温泉街に川が流れている景色はよく見られるが、夜になると川や河川域は闇に消えていることが多い。しかしここでは、川には橋の間接光が連なり、護岸の樹木はライトアップされ、飛び石や河川そのものにも光が向けられることで、夜にも「写真を撮りたくなる」「そぞろ歩きしたくなる」気持ちにさせる親水性のある夜間景観が作り出されている点が高く評価された。

(原田武敏)

優秀賞:ZOZO本社屋

撮影:Koji Fujii / TOREAL

受賞者:
中村 拓志(中村拓志&NAP建築設計事務所)
成山 由典(株式会社竹中工務店)
麻田 勝正(株式会社モデュレックス)
作品関係者:
事業主:
株式会社ZOZO
設備設計:
鈴木 宏彬(株式会社竹中工務店)

作品コンセプト:

 西千葉の街中に平屋に近いオフィスをつくり、街と共に成長するオフィスを目指した。街全体をオフィスととらえる「領域型オフィス」を目指し、内外装が連続するデザインにより、街との連続感を創出した。グレアの少ない照明機器を採用し、特徴的な木格子の傾斜屋根の中に納めることで、極力目立たなくさせている。やわらかく温かみのある光により屋根を浮かび上がらせ、地域のシンボルとなる建築として、地域住民に親しまれている。

講評:

 箱型の建物が建ち並ぶ一帯に企業哲学を体現するようなオフィスが姿を現した。平屋に近く親しみのわくスケールの建物は特徴的な勾配屋根が美しいスカイラインを形成している。昼間、うっすらと見える室内の表情が日没とともに浮かび上がりオフィス内のアクティビティが見えてくる。周辺とつながることを意識した企業スタイルが街との共存関係を生み出す。柔らかい布のような天井は木格子で構成され、照明を含む設備類は目立たないよう格子の中に納められている。レギュラーに配置されたスポットライトで水平面照度を確保し、その反射光が柔らかい傾斜天井をほんのり浮かび上がらせている。オフィス内のフリーアクセスを目指し、高低差の大きい不均質な気積の中でも安定した照度を確保できるようデジタル制御に注力している。また100点を超えるアートワークが照明でピックアップされ、オフィス内を彩り空間を活性化しているのも新たなオフィスのあり方であるようだ。

(富田泰行)

入賞:総持寺 客殿ポタラ

撮影:Tamotsu Kurumata

受賞者:
戸恒 浩人(有限会社シリウスライティングオフィス)
小林 周平(有限会社シリウスライティングオフィス)
作品関係者:
事業主:
中西 隆英(宗教法人総持寺)
建築設計:
広谷 純弘(株式会社アーキヴィジョン広谷スタジオ)
石田 有作(株式会社アーキヴィジョン広谷スタジオ)
堀部 雄平(株式会社アーキヴィジョン広谷スタジオ)
山田 悦史(株式会社アーキヴィジョン広谷スタジオ)

作品コンセプト:

 創建1140年の歴史をもつ総持寺の境内に造られた寺カフェ。特徴的な屋根群は、観音様が降り立つとされる補陀洛(ポータラカ)の山並みから着想を得ている。この美しい段状の木天井の造形を、無垢な姿のまま感じられるように、空中に浮かばせた極細のフレームに照明を集約し、空間全体の明るさを確保した。

 住宅に囲まれた高台の上に建つこのカフェは、夜になると行燈のように灯り、行き交う人々に安心感を与えてくれる。

講評:

 主に昼間に利用される施設で、空中に浮かぶ照明フレームには、天井広く覆う木で段状のテクスチャを天窓からの光と協調して引き出すための照明光源と、カフェのテーブルを照らすダウンライト照明光源を高度に集約しており、空間に無粋な設備や配線が現れていない。天井面とフレームの下端が相まって構成する水平面が空間ボリュームの起伏の中に適度な規律を与えており、照明フレームが空間を構成する要素としての役割を担っている。

(原直也)

入賞:高槻市 安満遺跡公園

受賞者:
村井 俊彦(㈱INA新建築研究所 西日本支社)
谷口 桃子(㈱INA新建築研究所 西日本支社)
長町 志穂(㈱LEM空間工房)
作品関係者:
事業主:
高槻市 街にぎわい部 歴史にぎわい推進課
独立行政法人 都市再生機構 西日本支社
建築設計:
北 伸一朗(㈱INA新建築研究所 西日本支社)
照明設計:
熊取谷 悠里(㈱LEM空間工房)

作品コンセプト:

 22ha におよぶ弥生時代の大集落跡を整備した遺跡公園には、再現された居住域を表す環濠や墳墓・水田等と共に、市民が活用できるパークセンターやカフェ、プロムナード、大屋根広場等が点在する。本照明計画はそういった歴史的ランドマークの演出を軸に、利活用を誘発するような建築照明・公共空間照明を目的に応じて丁寧にデザインしている。

 現在は日中から夕刻まで多くの市民でにぎわう高槻市を代表する公園施設となっている。

講評:

 弥生時代の住居跡を示す「環濠」(マウンド)を廻る法面を、LED照明の制御テクニックで浮かび上がらせ、2つの高架式鉄道(JR、阪急電車)から認識される。高槻市の中心に存在する歴史遺産が、現代の市民にとってのアイデンティティを示す空間として創出された。

 ともすれば「負」の広場になりそうな遺跡跡だが、地域住民のみならず、訪問者にとっての観光拠点としても、昼夜をまたいで「生き生き」と使われていることが高評価を得た。

(木下史青)

入賞:新電元工業朝霞事業所

撮影:近代建築社

受賞者:
松本 浩作(有限会社スタイルマテック)
橋本 竜一(株式会社安藤・間)
作品関係者:
事業主:
新電元工業株式会社
建築設計:

株式会社安藤・間
照明設計:

有限会社スタイルマテック

作品コンセプト:

 拡散光で満たされ、季節・時刻・天候など移ろいゆく外部環境の光の変化を身近に感じられるアトリウム空間と、隣接するニュートラルなオフィス空間を一体化し、光の多様性を保ちながら建物全体の一体感を作りだすことがテーマであった。グレアを防ぎ天井に光を拡散させるオフィス照明や、各部の間接照明は概日リズムに沿った運転を行い、アトリウムの自然光となじませつつ明るさ感を連続させ、全体の一体感を生み出している。

講評:

 2つのオフィス棟の中央にアトリウムがあり、アトリウムからも採光が得られている。執務室とアトリウムをつなぐ通路部分も解放されているため、全体に開放感が感じられた。照明は建築デザインを生かすように鉛直面の壁面や階段手摺などに内蔵されているため、器具の存在感を抑えながら必要な明るさが得られている。眩しさを抑えるよう既製品を加工したオフィス照明は、サーカディアン照明として色温度と照度が変化するように制御され、利用者にも配慮されていた。

(福多佳子)

審査員特別賞:Creative Media Lounge

撮影:山内紀人

受賞者:
小林 浩(大成建設株式会社)
勝又 洋(大成建設株式会社)
涌井 匠(大成建設株式会社)
作品関係者:
事業主:
猪里 孝司(大成建設株式会社設計本部)
建築設計:
廣澤 克典(大成建設株式会社)
松岡 弘樹(大成建設株式会社)

作品コンセプト:

 従来の均質な光環境のオフィスとの差別化を図り、健康で自由に働く執務環境を目指した、やさしい光に包まれたワークプレイスである。木枠に照明を組込み、半透明の波板ポリカで挟んだ間仕切壁は、光を拡散し、視線と音を制御し、従業員同士の適度な距離感を保つ。身近な材料を組み合わせることで、超ローコストで、汎用性が高く、誰でも簡単に作ることができるように設計した。

講評:

 内照式パーティションによるオフィス照明の新しい提案である。パーティション側面はポリカーボネートの波板で構成され、その上下にLEDライン照明が内蔵されている。パーティションは丁番で連結されているため、ジグザグの角度によって机の配置にも自由に対応できるようになっている。下側のライン照明では天井面への間接照明効果が得られ、上側のライン照明では机上面の明るさも得られ、パーティションによるタスクアンビエント照明の効果が得られていた。

(福多佳子)

2021年 照明デザイン賞 講評

総評

応募総数は55作品を数え、第一回審査会(1~3次審査)によって段階的に絞られた10作品が現地審査の対象となった。コロナ禍により多少の不便さはあったものの審査は順調に行われ、2名の審査員が現地に赴き関係者の熱心な説明を受けた。第二回(最終)審査会では各審査員の報告を受けた後活発な議論が交わされ、採点も含め3回にわたる決選投票を経て受賞者が決定した。どの作品もコンセプトが明快で、時代のニーズに応えこれからの照明の可能性を広げるものであった。

(審査員長 富田泰行)

最優秀賞:玉川髙島屋S・C 本館グランパティオ

撮影:阿野太一

受賞者:
永山 祐子(有限会社永山祐子建築設計)
岡安 泉(株式会社岡安泉照明設計事務所)
前田 知希(大光電機株式会社)
作品関係者:
事業主:
東神開発株式会社
設計・監修:
有限会社永山祐子建築設計
設計・監理:
株式会社日本設計
施工:
東急リニューアル株式会社
照明設計:
株式会社岡安泉照明設計事務所
照明制作:
大光電機株式会社

作品コンセプト:

 商業施設の共有部の改修プロジェクトである。訪れた人に本やアートとの新たな出会いをもたらす、大きな吹抜け空間を、時に公園のような、時に書斎のような親密な場所にしたいと考えた。親密な場所とする仕掛けとして、「光の群像」をつくろうと考えた。669個の電球と1338本のコードにより天井全体にボールト形状を構成。斜め40度の2本の細いコードにネックレスのように一つの電球をつっている。白い線が重なった集合体が雲のように頭上を覆い電球によって照らし上げられる。一番長い5mのコードを弛まないよう綺麗につるすため必要となるおもりの重量計算と実験を繰り返した。また、アクリル球の内部で反射光を集めるために削り取られた窪みの形状が眩しく見えないよう、また空間に歪な反射を生まないよう配慮しながら試作を重ねた。2本のコードのうち通電していない1本にSUSワイヤーを入れ、落下防止の安全対策にも細心の注意を払っている。

講評:

 本館中央1・2階吹き抜け大空間の改修プロジェクトである。改修前の空間に不足していた「明るさ」と「居心地の良さ」を作ることを目指した。まず目に入るのは、天井から吊り下げられた透明な電球によるダイナミックな光のネックレスの数々である。直径6センチのアクリル球の内部を30度の円錐形に削って、4.5WLEDの光を眩しく見えないよう床面に反射させて均一な明るさを得た。一番長いコードは5m。コードがたわまずにV字を保つ重さを備えた669個の電球で、ボールト形状の星空のような光天井が構成されている。心配なのは安全性であるが、V字に吊ったコードと直角方向にワイヤーを張って揺れを吸収する、V字のコードのうち通電していない1本にSUSワイヤーを入れて落下を防止するなど、細心の注意が払われている。憩いの場として、書斎として、時には舞台としての役割を担う場づくりを成功させた繊細な光の裏に、スマートな技術と地道な検証を見た。

(近田玲子)

優秀賞:銀座駅リニューアル

撮影:Nacasa & Partners Inc.

受賞者:
松下 美紀(株式会社松下美紀照明設計事務所)
中村 元彦(株式会社松下美紀照明設計事務所)
須賀 博之(株式会社日建設計)
作品関係者:
事業主:
東京地下鉄株式会社
建築設計:

向井 一郎(株式会社日建設計)
大場 啓史(株式会社日建設計)
大森 拓真(株式会社日建設計)
小島 正直(株式会社交建設計)
山代 順一(株式会社交建設計)

作品コンセプト:

 「伝統と先端」をテーマに改修が進められた銀座線。銀座駅では「人とメトロと街をつなぐ光」をコンセプトに、誰にでも分かりやすい空間を目指した。多様な利用者が容易に理解できるように、乗り入れる3路線からイメージされた形状“〇、△、□”と、路線カラーの“黄、赤、シルバー”をコアとして照明デザインを行い、それらは柳の木をイメージした光柱や開業時の鉄鋼框を見せる光壁、そして天井や上屋のデザインに取り入れている。

講評:

 まちの彩りが地下に染み渡ってきたかのような華やいだ公共交通空間が誕生した。土木構造物の厳しい与条件の中で「誰にでも分かりやすい空間」を共通テーマに掲げ、安全性と快適性を追求した地下空間である。乗り入れる3路線の空間構造と路線カラーをモチーフにした光の形態や色彩は地下動線に明快なオリエンテーションを与えている。他方、建築素材や仕上げは上質感のあるダーク系であるため明るさ感の獲得にかなり腐心したようだ。柱巻き、光壁、ホーム対向壁など鉛直面の明るさ確保や明暗によるアイキャッチ性や視線誘導など光の手法にも様々な工夫が見られたことも高い評価につながった。

 「明るければ駅は安全だ」という考えはもう過去のものである。駅は乗降、移動を主体とする都市交通の結節点であるが、今では休息やコミュニケーション、更にはワークスタイルの変化から多様性が求められてきている。本プロジェクトはこれからの駅のあり方に一つの指針を与えるものである。

(富田泰行)

優秀賞:旧富岡製糸場西置繭所

撮影:加藤純平

受賞者:
齋賀 英二郎(公益財団法人文化財建造物保存技術協会)
飯塚 千恵里(飯塚千恵里照明設計事務所)
作品関係者:
事業主:
富岡市世界遺産観光部
建築設計:
株式会社森村設計

作品コンセプト:

 国宝旧富岡製糸場西置繭所(2014年に世界遺産一覧表に記載)は、翌2015年から6年の歳月をかけて保存修理及び整備活用工事が行われた。耐震補強鉄骨とガラスボックスが新たに設置された1階のギャラリーとホールでは、照明器具は来館者の目に触れない位置に設置するか、極限までグレアを抑えて目立たない様配慮した。建築の価値を維持・保存しながらさらにその魅力を引き出し、見学と鑑賞ができる空間の創出をコンセプトとした。

講評:

 日本の近代化を、機械による生糸の量産化と高い品質管理により、1987年の閉業までこの国を支えた拠点であったことから、2014年に世界文化遺産として登録され、その保存・公開のための保存整備工事に伴う照明デザインが評価された。

 国宝旧富岡製糸場西置繭所は、収穫された1年分の乾燥した繭を保管する、貯繭(ちょけん)のための、東西2棟のうち1棟の倉庫である。正門から敷地に入ると、まず外観を特徴づける木柱の構造と、煉瓦の壁が見えてきて、夕暮れ時にライトアップされた姿を想像させる。建物内へ入ると、「保存」のための耐震補強の鉄骨と、ガラスによって覆われた展示ギャラリーが現れる。さらに2階へ上がると、製糸場最盛期の姿に復原された展示空間を見ることができる仕組みだ。国宝の文化財建造物と、国産の製糸産業遺産の歴史を読み解くミュージアムとして、超高演色性能を有し、かつグレアを制御したスLED ポットライトを使用することで、良質な展示空間が生まれた。

(木下史青)

優秀賞:高輪ゲートウェイ駅

受賞者:
窪田 麻里(株式会社ライティング プランナーズ アソシエーツ)
中村 美寿々(株式会社ライティング プランナーズ アソシエーツ)
山本 雅文(株式会社ライティング プランナーズ アソシエーツ)
作品関係者:
事業主:
東日本旅客鉄道株式会社
プロジェクト統括:
東日本旅客鉄道株式会社 東京工事事務所
電気工事統括:
東日本旅客鉄道株式会社 東京電気システム開発工事事務所
デザインアーキテクト:
隈研吾建築都市設計事務所
建築設計・監理:
株式会社JR東日本建築設計

作品コンセプト:

 折り紙を模した大屋根が広々としたコンコースとホームを一体的に覆う駅舎は、近い将来、周辺大規模開発街区の中核となる。心地よい駅空間の創出と、新しい街のランドマークとなる光をめざした。

 障子をイメージした膜屋根により、日中は駅全体が柔らかな光に包まれ、日没後は徐々に内部から温かな光がこぼれでる。照度確保に特化した均一な照明ではなく、利用者がその瞬間を感じ取れるよう、時間に寄り添って変化する照明が必要であると考えた。開放的な建築空間を引き立てる照明計画と、利用者数と天候の変化を考慮して設定された調光調色の7つのシーンオペレーションによって、“新しい駅舎の光”を実現した。

講評:

 1971年に開業した西日暮里駅以来、およそ50年ぶりの山手線の新駅という非常に難しいプロジェクトである。この半世紀の間に、駅のあり方は大きな変化を遂げ、単なる交通施設から街との関係を再構築する拠点として位置づけられるようになった。本駅は、交通機能の本丸である1Fのホーム階、2F・3Fのコンコース・店舗、それを覆うETFEの幕屋根という水平な3層構造に対し、風雨を防ぐためのカーテンウォールが取り付けられているという構造となっているが、照明は、前者の3層を美しく浮かび上がらせることによって、あたかも街に開かれた屋根のある広場であるかのような、21世紀の駅のあり方を実現している。さらに、そのような光環境の文化的な意義だけでなく、自動的に制御される調光調色によって、人工環境と自然環境という認知の境界に対して揺らぎを与えるような仕組みであったり、幕屋根の大きな気積を体感できるホーム階の吹抜によって生じる天井高の違いを感じさせない安定的な光環境の実現など、高い技術水準も同時に評価された。

(川添善行)

入賞:嘉麻市庁舎

撮影:八代写真事務所

受賞者:
須田 智成(株式会社久米設計九州支社)
永野 孝之(株式会社久米設計九州支社)
福田 哲也(株式会社久米設計九州支社)
作品関係者:
事業主:
嘉麻市長 赤間幸弘
建築設計:
福田 光俊(株式会社久米設計九州支社)
清水 章太郎(株式会社久米設計九州支社)

作品コンセプト:

 熊本地震直後(2016年4月)に計画が始まり、合併特例債活用期限内(2020年3月)の竣工が求められた福岡県嘉麻市の新庁舎の計画である。この時代背景に対して実直に応答するため、安心・安全性確保とイニシャルコスト縮減を両立した合理的な建築のあり方を追求した結果、無駄なものが削ぎ落とされたコンクリートの「矩形」が残った。

 力強く美しい躯体を引き立たせる光環境を形成し、建築コンセプトを純化させることを意図した。

講評:

 クリア塗装の打放しRC直天井にぼんやりと映る外光や人工光は、利用者の外部との繋がり感や開放感を高めるとともに、室奥から見た窓面と室内表面との輝度対比を緩和し窓面のまぶしさを低減する。また、西日対策機能を持つ縦軸木ブラインドは夜間に適度な明るさにライトアップされ、昼夜の建物正面の外観を効果的に印象づけている。公共建築として簡素でありながら、建築と一体としてデザインされ、良質な光環境が実現されている。

(原直也)

入賞:ののあおやま

受賞者:
窪田 麻里(株式会社ライティング プランナーズ アソシエーツ)
岩永 光樹(株式会社ライティング プランナーズ アソシエーツ)
永田 恵美子(株式会社ライティング プランナーズ アソシエーツ)
作品関係者:
事業主:
青山共創株式会社
山下 文行(東京建物株式会社 住宅賃貸事業部賃貸住宅事業推進グループ)
弘中 陽介(三井不動産株式会社 開発企画部開発企画グループ)
中村 達也(三井不動産レジデンシャル株式会社 賃貸住宅事業部事業室)
建築設計:
田村 慎一(鹿島建設株式会社一級建築士事務所)
デザイン監修:
隈 研吾(隈研吾建築都市設計事務所)
ランドスケープデザイン監修:
平賀 達也(ランドスケープ・プラス)

作品コンセプト:

 青山の森に「安全な明るさと快適な暗さの共存」を目指す光環境が出現した。高層住宅やサービス付き高齢者住宅、保育園、店舗が入った低層建築を、約3,500 ㎡の緑やビオトープを小径で繋ぐ大規模緑地が囲み、豊かな自然が生きる青山の生活環境を形成している。建築とランドスケープのデザインと一体化し、光環境を同次元で設計することにより、「ののあおやま」の夜景は青山の文化と品格を表現しブランド化することに成功した。

講評:

 豊かな緑とビオトープのある青山の森に「安全な明るさと快適な暗さの共存」を図り、ボラードとポールスポットで安全のための足元明かりを確保し、視点のポイントとなる樹木とビオトープに光を絞ることで、森に快適な暗さを作り出している。「暗さのデザイン」であるとも言える。建築とランドスケープを光で繋ぎ、敷地全体に一体感を作り出しながらも、それぞれの光は細部まで練られており、上質で心地よい空間に仕上げられている。

(原田武敏)

入賞:大正大学8号館

撮影:株式会社エスエス東京

受賞者:
堤 裕二(株式会社大林組 設計本部 建築設計部)
佃 和憲(株式会社大林組 設計本部 建築設計部)
小山 岳登(株式会社大林組 設計本部 設備設計部)
作品関係者:
事業主:
学校法人 大正大学
照明設計:

猪股 寛(パナソニック株式会社 ライティング事業部)

作品コンセプト:

 図書館やラーニングコモンズを核とする学修拠点に、地域交流を促すブックカフェ等を加えることで、地域に根差し、ずっと居たくなる学びの場となることを目指した。自然光が降り注ぐ日中から、日没とともに間接照明による落ち着いた空間へと時の移ろいを感じることができる。仏教由来のある七宝繋ぎから着想を得た七宝パネルが行燈のように、建物内や地域を照らし、仏教精神を基調とする大学のアイデンティティを体現させた。

講評:

 七宝紋様のスチールパネルに包まれた外装はシャンパンゴールドで彩られ、昼は明るく煌びやかな印象を受ける。しかし夜、七宝紋様の背後に仕込まれた明かりが灯ると、外装の色は闇に消え、仄かに灯る行燈のような姿へと変わる。昼と夜の表情の違いが印象的である。館内もトップライトによる昼光やベース照明のある昼のシーンから間接照明が浮かび上がる夜のシーンへと移り変わる等、細やかな光の配慮が行われている点も評価された。

(原田武敏)

審査員特別賞:熊本城特別見学通路

撮影:益永研司写真事務所

受賞者:
塚川 譲(株式会社日本設計九州支社)
鬼木 貴章(株式会社日本設計九州支社)
岩永 朋子(株式会社遠藤照明)
作品関係者:
事業主:
熊本市

作品コンセプト:

 被災した城内に点在する歴史の遺構や震災での崩落箇所、既存樹木を避け、針の穴ほどの空間を繋ぎ合わせて行く作業を繰り返すことで創られた全長350m、高低差21mの一筆書きの柔らかな弧を描いた見学通路。熊本城の環境と一体となった佇まいを目指すため、そのダイナミックかつ繊細な流れを、途切れることのない連続した光で照らすことで、その形状や構造の美しさを表現し、建築同様に熊本城の夜景に寄り添う照明デザインを目指した。

講評:

 見学通路全長350mの照明デザインは、通路片面に配置されたライン照明で構成され、その光が檜のデッキ床面を柔らかく照らしている。反射光が対面の欄干部の白いフェンスに反映し、高低差21mの空中歩廊がまるで光により浮遊しているような印象を与えている。ライトアップされた熊本城と光の対比を上手く構成させており、これから先、長きに亘って復興工事を続ける熊本城跡へ優しく寄り沿った心に響く光環境が創出されている。

(松下美紀)

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