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照明デザイン賞受賞者一覧

照明デザイン賞は、光を素材とした、優れたデザイン的内容を持ち、創意工夫に満ちた作品を顕彰するものであり、近年、国内に竣工した空間に対する光環境や照明デザインにおいて、社会的、文化的見地からも極めて高い水準が認められる独創的なもの、或いは新たな照明デザインの可能性を示唆するもので、時代を画すると目される優れた作品を称え表彰するものです。

2022年 照明デザイン賞 講評

総評

応募総数は45作品で1~2次審査を経て現地審査の対象となったのは9作品であった。審査員が現地に赴き応募者の熱心な説明を受けながら現地審査を行った。その後の最終審査では各審査員の報告を受け活発な議論が交わされた後、9項目からなる評価項目により採点及び審議が行われ、今年は8作品が受賞の栄誉に浴することになった。受賞作品はどれも当該空間での新たな光にチャレンジする姿勢が見え、美しい光の先にある次代の照明のあり方を示唆するものであった。

(審査員長 富田泰行)

建築、空間の設計の中で照明ほど最後の完成まで正解がわからず、設計の難しいものはないと実感している。光は物資的なものではなく、相対的に決定される状態なので、とても繊細で微妙な匙加減で大きく効果が変化してしまう。全体の印象としては照明=光がそのプロジェクトにおいて可能性をどれだけ広げられたかということが大切なポイントだったように思う。地域活性に光が大きく貢献した「長門湯本温泉観光まちづくり」「金沢港 加賀五彩を纏う」。光によってその場所の魅力が増すことにより今後多くの人がこの場所を訪れるきっかけを作り出している。最優秀賞の「藤田美術館」は自然光と人工光を織り混ぜたきめ細やかな照明設計により、建築空間の魅力を最大限に活かしている。光が場所、空間などとの融合により新しい価値を生み出してくれることを今回の多種多様な照明プロジェクトの審査を通じて改めて実感した。

(永山祐子)

最優秀賞:藤田美術館

撮影:伊藤 彰(アイフォト)

受賞者:
平井 浩之(大成建設株式会社)
宮本 育美(大成建設株式会社)
作品関係者:
事業主:
藤田 武利(公益財団法人 藤田美術館)
建築設計:
渡邉 智介(大成建設株式会社)
設備設計:
菅原 圭子(大成建設株式会社)
共用部監修:
森 秀人(Lighting M)
展示監修:
会津 寿美子(株式会社トータルメディア開発研究所)

作品コンセプト:

 敷地は大阪市の中心部、明治半ばから大正期にかけて関西経済界で大きな功績を残した藤田傳三郎(1841-1912)の邸宅跡地である。1911年に建設された収蔵庫の老朽化に伴い建替えが決定された。かつて網島一帯が藤田家の大邸宅であった土地の記憶を呼び戻すべく、地域貢献への強い思いのもと、公園や道路との境界に存在していた高い塀を撤去して自由にだれでも出入りできる土間スペースを設けた。イベントや美術品の展示も出来るよう配慮した照明は調色・調光を可能とし多様な利用を想定している。南向きのハイサイドライトから光ダクトを介して取り入れる太陽光は、奥行の深い建物内部に季節・時間毎に移り行く自然を体感できる。夜の照明だけでない昼の光の制御にも注力した。日が暮れると共に浮かび上がる庇は大きな羽のように人々を迎え入れる。新たに人が集う場を作る事でより地域に根差し、街のシンボルとして開かれた美術館を目指す。

講評:

 先ず特筆すべきは、地域に開かれたユニークな施設を象徴するガラス張りで開放的な「土間」と呼ぶエントランスホールだ。「お茶やお団子を食べながら美術を通じて色々な人と交友が持てる場」と言うように、この土間には様々なイベントに対応する照明設備が設計されている。人々を迎え入れるための解放された表情は、南向きのハイサイドライトから差し込む太陽光と夜間のリニアな間接照明により成立している。昼夜共に変化するこの鉛直面照明のディテールが漆喰壁の温かさを十分に表現する。

 このような照明デザインのアイデアは展示室や離れの茶室にも行き渡っている。展示室では旧美術館の木材を再利用したユニークな天井ルーバーが空調・消火・照明設備などを飲み込む景色を創り、茶室には光ダクトを駆使した採光窓なども作られている。

 この積極的で精緻な光のデザインは、建築意匠と照明設備の統合による建築照明デザインの真髄を、余すところなく示すものとして高く評価された。

(面出薫)

優秀賞:金沢港 加賀五彩を纏う

写真提供:石川県金沢港湾事務所

受賞者:
近田 玲子(株式会社近田玲子デザイン事務所)
野澤 寿江(株式会社近田玲子デザイン事務所)
高永 祥(株式会社近田玲子デザイン事務所)
作品関係者:
事業主:
石川県
企画:
石川県土木部港湾課
設計監理:
石川県金沢港湾事務所
建築設計:
石川県土木部営繕課
建築設計:
株式会社浦建築研究所
設備設計:
アルスコンサルタンツ株式会社

作品コンセプト:

 クルーズターミナル新設に伴い、新たな観光資源の創出を目的に計画された金沢港ライトアップのコンセプトは『金沢港 加賀五彩を纏う』。伝統工芸の加賀友禅に用いられる「加賀五彩/古代紫、燕脂、藍、草、黄土」の5色を基本に、湾を囲む様々な施設を光で結び、全長4kmにわたるダイナミックな光の動きと共に港の大きさを実感するプログラムで、夜間に訪れる人の無かった港は地元の人々に愛される新たな名所となった。

講評:

 金沢というと、JR金沢駅の東口側に「加賀百万石」を背景に開けた、北陸の代表的な文化都市というイメージがある。そんな金沢駅の反対側、西口から15分ほどレンタカーを走らせると金沢港が見えてくる。港湾事業の産業地として日本海へ開けた港に、海外からの豪華客船を含む、国際的な観光拠点として整備された照明デザインが評価された。

 金沢の伝統工芸「加賀友禅」の基本的な5色の光で、港湾内を廻る管理主体の異なる施設(クルーズターミナル広場・セメントサイロ・ガントリークレーン・橋・巡視船など)を、幻想的に結ぶことにより、石川県による新たな観光拠点を創出するプロジェクトである。

 施設の竣工後、世界的な新型コロナウイルス感染症の蔓延により、未だ豪華クルーズ客船の来航を果たすことが叶わず、この施設の本来の目的を達することができていないのが残念なことではあるが、既に昼夜の景観を楽しむ姿を見ることができた。更なる展開に期待したい。

(木下史青)

優秀賞:長門湯本温泉観光まちづくり

撮影:下村康典

受賞者:
長町 志穂(株式会社LEM空間工房)
熊取谷 悠里(株式会社LEM空間工房)
木村 隼斗(長門湯本温泉まち株式会社)
作品関係者:
事業主:
江原 達也(長門市長)
全体事業推進:
泉 英明(有限会社ハートビートプラン)
ランドスケープデザイン監修:
金光 弘志(有限会社カネミツヒロシセッケイシツ)
設備設計:
吉田 矢(株式会社綜合計画)
システム設計:
伊藤 貴史(ウシオライティング株式会社)
照明器具設計:
兵藤 真一郎(SD Lighting株式会社)

作品コンセプト:

 衰退した温泉地を公民の強い連携によって再生したプロジェクトで、大規模な土木改修と共に、仕組み作りから活用までを一体的に行っている。照明計画は「絵になる風景・回遊性の創出」をミッションに、温泉地全域での照明制御のもと新旧すべてのエリアをデザインしている。川や緑、既にある橋梁等この地の持つ本来の魅力を活かす夜景づくりを念頭に、季節毎のシーン変化や閑散期対策の演出なども想定した拡張性のある計画である。

講評:

 時代の流れの中で衰退しつつあった温泉地を整備し、魅力的な温泉街とするための公民連携のまちづくりプロジェクトである。その中で夜間景観の整備の重要性が当初から位置づけられ、温泉街全域の照明改修にまで広がったことで、温泉街全域を照明制御することが可能になっている。時間帯や特定日でのプログラム制御では、エリアごとに個々に光の減光や消灯、カラー演出等の制御を行い、温泉街の夜に新たな表情を加えている。

 温泉街に川が流れている景色はよく見られるが、夜になると川や河川域は闇に消えていることが多い。しかしここでは、川には橋の間接光が連なり、護岸の樹木はライトアップされ、飛び石や河川そのものにも光が向けられることで、夜にも「写真を撮りたくなる」「そぞろ歩きしたくなる」気持ちにさせる親水性のある夜間景観が作り出されている点が高く評価された。

(原田武敏)

優秀賞:ZOZO本社屋

撮影:Koji Fujii / TOREAL

受賞者:
中村 拓志(中村拓志&NAP建築設計事務所)
成山 由典(株式会社竹中工務店)
麻田 勝正(株式会社モデュレックス)
作品関係者:
事業主:
株式会社ZOZO
設備設計:
鈴木 宏彬(株式会社竹中工務店)

作品コンセプト:

 西千葉の街中に平屋に近いオフィスをつくり、街と共に成長するオフィスを目指した。街全体をオフィスととらえる「領域型オフィス」を目指し、内外装が連続するデザインにより、街との連続感を創出した。グレアの少ない照明機器を採用し、特徴的な木格子の傾斜屋根の中に納めることで、極力目立たなくさせている。やわらかく温かみのある光により屋根を浮かび上がらせ、地域のシンボルとなる建築として、地域住民に親しまれている。

講評:

 箱型の建物が建ち並ぶ一帯に企業哲学を体現するようなオフィスが姿を現した。平屋に近く親しみのわくスケールの建物は特徴的な勾配屋根が美しいスカイラインを形成している。昼間、うっすらと見える室内の表情が日没とともに浮かび上がりオフィス内のアクティビティが見えてくる。周辺とつながることを意識した企業スタイルが街との共存関係を生み出す。柔らかい布のような天井は木格子で構成され、照明を含む設備類は目立たないよう格子の中に納められている。レギュラーに配置されたスポットライトで水平面照度を確保し、その反射光が柔らかい傾斜天井をほんのり浮かび上がらせている。オフィス内のフリーアクセスを目指し、高低差の大きい不均質な気積の中でも安定した照度を確保できるようデジタル制御に注力している。また100点を超えるアートワークが照明でピックアップされ、オフィス内を彩り空間を活性化しているのも新たなオフィスのあり方であるようだ。

(富田泰行)

入賞:総持寺 客殿ポタラ

撮影:Tamotsu Kurumata

受賞者:
戸恒 浩人(有限会社シリウスライティングオフィス)
小林 周平(有限会社シリウスライティングオフィス)
作品関係者:
事業主:
中西 隆英(宗教法人総持寺)
建築設計:
広谷 純弘(株式会社アーキヴィジョン広谷スタジオ)
石田 有作(株式会社アーキヴィジョン広谷スタジオ)
堀部 雄平(株式会社アーキヴィジョン広谷スタジオ)
山田 悦史(株式会社アーキヴィジョン広谷スタジオ)

作品コンセプト:

 創建1140年の歴史をもつ総持寺の境内に造られた寺カフェ。特徴的な屋根群は、観音様が降り立つとされる補陀洛(ポータラカ)の山並みから着想を得ている。この美しい段状の木天井の造形を、無垢な姿のまま感じられるように、空中に浮かばせた極細のフレームに照明を集約し、空間全体の明るさを確保した。

 住宅に囲まれた高台の上に建つこのカフェは、夜になると行燈のように灯り、行き交う人々に安心感を与えてくれる。

講評:

 主に昼間に利用される施設で、空中に浮かぶ照明フレームには、天井広く覆う木で段状のテクスチャを天窓からの光と協調して引き出すための照明光源と、カフェのテーブルを照らすダウンライト照明光源を高度に集約しており、空間に無粋な設備や配線が現れていない。天井面とフレームの下端が相まって構成する水平面が空間ボリュームの起伏の中に適度な規律を与えており、照明フレームが空間を構成する要素としての役割を担っている。

(原直也)

入賞:高槻市 安満遺跡公園

受賞者:
村井 俊彦(㈱INA新建築研究所 西日本支社)
谷口 桃子(㈱INA新建築研究所 西日本支社)
長町 志穂(㈱LEM空間工房)
作品関係者:
事業主:
高槻市 街にぎわい部 歴史にぎわい推進課
独立行政法人 都市再生機構 西日本支社
建築設計:
北 伸一朗(㈱INA新建築研究所 西日本支社)
照明設計:
熊取谷 悠里(㈱LEM空間工房)

作品コンセプト:

 22ha におよぶ弥生時代の大集落跡を整備した遺跡公園には、再現された居住域を表す環濠や墳墓・水田等と共に、市民が活用できるパークセンターやカフェ、プロムナード、大屋根広場等が点在する。本照明計画はそういった歴史的ランドマークの演出を軸に、利活用を誘発するような建築照明・公共空間照明を目的に応じて丁寧にデザインしている。

 現在は日中から夕刻まで多くの市民でにぎわう高槻市を代表する公園施設となっている。

講評:

 弥生時代の住居跡を示す「環濠」(マウンド)を廻る法面を、LED照明の制御テクニックで浮かび上がらせ、2つの高架式鉄道(JR、阪急電車)から認識される。高槻市の中心に存在する歴史遺産が、現代の市民にとってのアイデンティティを示す空間として創出された。

 ともすれば「負」の広場になりそうな遺跡跡だが、地域住民のみならず、訪問者にとっての観光拠点としても、昼夜をまたいで「生き生き」と使われていることが高評価を得た。

(木下史青)

入賞:新電元工業朝霞事業所

撮影:近代建築社

受賞者:
松本 浩作(有限会社スタイルマテック)
橋本 竜一(株式会社安藤・間)
作品関係者:
事業主:
新電元工業株式会社
建築設計:

株式会社安藤・間
照明設計:

有限会社スタイルマテック

作品コンセプト:

 拡散光で満たされ、季節・時刻・天候など移ろいゆく外部環境の光の変化を身近に感じられるアトリウム空間と、隣接するニュートラルなオフィス空間を一体化し、光の多様性を保ちながら建物全体の一体感を作りだすことがテーマであった。グレアを防ぎ天井に光を拡散させるオフィス照明や、各部の間接照明は概日リズムに沿った運転を行い、アトリウムの自然光となじませつつ明るさ感を連続させ、全体の一体感を生み出している。

講評:

 2つのオフィス棟の中央にアトリウムがあり、アトリウムからも採光が得られている。執務室とアトリウムをつなぐ通路部分も解放されているため、全体に開放感が感じられた。照明は建築デザインを生かすように鉛直面の壁面や階段手摺などに内蔵されているため、器具の存在感を抑えながら必要な明るさが得られている。眩しさを抑えるよう既製品を加工したオフィス照明は、サーカディアン照明として色温度と照度が変化するように制御され、利用者にも配慮されていた。

(福多佳子)

審査員特別賞:Creative Media Lounge

撮影:山内紀人

受賞者:
小林 浩(大成建設株式会社)
勝又 洋(大成建設株式会社)
涌井 匠(大成建設株式会社)
作品関係者:
事業主:
猪里 孝司(大成建設株式会社設計本部)
建築設計:
廣澤 克典(大成建設株式会社)
松岡 弘樹(大成建設株式会社)

作品コンセプト:

 従来の均質な光環境のオフィスとの差別化を図り、健康で自由に働く執務環境を目指した、やさしい光に包まれたワークプレイスである。木枠に照明を組込み、半透明の波板ポリカで挟んだ間仕切壁は、光を拡散し、視線と音を制御し、従業員同士の適度な距離感を保つ。身近な材料を組み合わせることで、超ローコストで、汎用性が高く、誰でも簡単に作ることができるように設計した。

講評:

 内照式パーティションによるオフィス照明の新しい提案である。パーティション側面はポリカーボネートの波板で構成され、その上下にLEDライン照明が内蔵されている。パーティションは丁番で連結されているため、ジグザグの角度によって机の配置にも自由に対応できるようになっている。下側のライン照明では天井面への間接照明効果が得られ、上側のライン照明では机上面の明るさも得られ、パーティションによるタスクアンビエント照明の効果が得られていた。

(福多佳子)

2021年 照明デザイン賞 講評

総評

応募総数は55作品を数え、第一回審査会(1~3次審査)によって段階的に絞られた10作品が現地審査の対象となった。コロナ禍により多少の不便さはあったものの審査は順調に行われ、2名の審査員が現地に赴き関係者の熱心な説明を受けた。第二回(最終)審査会では各審査員の報告を受けた後活発な議論が交わされ、採点も含め3回にわたる決選投票を経て受賞者が決定した。どの作品もコンセプトが明快で、時代のニーズに応えこれからの照明の可能性を広げるものであった。

(審査員長 富田泰行)

最優秀賞:玉川髙島屋S・C 本館グランパティオ

撮影:阿野太一

受賞者:
永山 祐子(有限会社永山祐子建築設計)
岡安 泉(株式会社岡安泉照明設計事務所)
前田 知希(大光電機株式会社)
作品関係者:
事業主:
東神開発株式会社
設計・監修:
有限会社永山祐子建築設計
設計・監理:
株式会社日本設計
施工:
東急リニューアル株式会社
照明設計:
株式会社岡安泉照明設計事務所
照明制作:
大光電機株式会社

作品コンセプト:

 商業施設の共有部の改修プロジェクトである。訪れた人に本やアートとの新たな出会いをもたらす、大きな吹抜け空間を、時に公園のような、時に書斎のような親密な場所にしたいと考えた。親密な場所とする仕掛けとして、「光の群像」をつくろうと考えた。669個の電球と1338本のコードにより天井全体にボールト形状を構成。斜め40度の2本の細いコードにネックレスのように一つの電球をつっている。白い線が重なった集合体が雲のように頭上を覆い電球によって照らし上げられる。一番長い5mのコードを弛まないよう綺麗につるすため必要となるおもりの重量計算と実験を繰り返した。また、アクリル球の内部で反射光を集めるために削り取られた窪みの形状が眩しく見えないよう、また空間に歪な反射を生まないよう配慮しながら試作を重ねた。2本のコードのうち通電していない1本にSUSワイヤーを入れ、落下防止の安全対策にも細心の注意を払っている。

講評:

 本館中央1・2階吹き抜け大空間の改修プロジェクトである。改修前の空間に不足していた「明るさ」と「居心地の良さ」を作ることを目指した。まず目に入るのは、天井から吊り下げられた透明な電球によるダイナミックな光のネックレスの数々である。直径6センチのアクリル球の内部を30度の円錐形に削って、4.5WLEDの光を眩しく見えないよう床面に反射させて均一な明るさを得た。一番長いコードは5m。コードがたわまずにV字を保つ重さを備えた669個の電球で、ボールト形状の星空のような光天井が構成されている。心配なのは安全性であるが、V字に吊ったコードと直角方向にワイヤーを張って揺れを吸収する、V字のコードのうち通電していない1本にSUSワイヤーを入れて落下を防止するなど、細心の注意が払われている。憩いの場として、書斎として、時には舞台としての役割を担う場づくりを成功させた繊細な光の裏に、スマートな技術と地道な検証を見た。

(近田玲子)

優秀賞:銀座駅リニューアル

撮影:Nacasa & Partners Inc.

受賞者:
松下 美紀(株式会社松下美紀照明設計事務所)
中村 元彦(株式会社松下美紀照明設計事務所)
須賀 博之(株式会社日建設計)
作品関係者:
事業主:
東京地下鉄株式会社
建築設計:

向井 一郎(株式会社日建設計)
大場 啓史(株式会社日建設計)
大森 拓真(株式会社日建設計)
小島 正直(株式会社交建設計)
山代 順一(株式会社交建設計)

作品コンセプト:

 「伝統と先端」をテーマに改修が進められた銀座線。銀座駅では「人とメトロと街をつなぐ光」をコンセプトに、誰にでも分かりやすい空間を目指した。多様な利用者が容易に理解できるように、乗り入れる3路線からイメージされた形状“〇、△、□”と、路線カラーの“黄、赤、シルバー”をコアとして照明デザインを行い、それらは柳の木をイメージした光柱や開業時の鉄鋼框を見せる光壁、そして天井や上屋のデザインに取り入れている。

講評:

 まちの彩りが地下に染み渡ってきたかのような華やいだ公共交通空間が誕生した。土木構造物の厳しい与条件の中で「誰にでも分かりやすい空間」を共通テーマに掲げ、安全性と快適性を追求した地下空間である。乗り入れる3路線の空間構造と路線カラーをモチーフにした光の形態や色彩は地下動線に明快なオリエンテーションを与えている。他方、建築素材や仕上げは上質感のあるダーク系であるため明るさ感の獲得にかなり腐心したようだ。柱巻き、光壁、ホーム対向壁など鉛直面の明るさ確保や明暗によるアイキャッチ性や視線誘導など光の手法にも様々な工夫が見られたことも高い評価につながった。

 「明るければ駅は安全だ」という考えはもう過去のものである。駅は乗降、移動を主体とする都市交通の結節点であるが、今では休息やコミュニケーション、更にはワークスタイルの変化から多様性が求められてきている。本プロジェクトはこれからの駅のあり方に一つの指針を与えるものである。

(富田泰行)

優秀賞:旧富岡製糸場西置繭所

撮影:加藤純平

受賞者:
齋賀 英二郎(公益財団法人文化財建造物保存技術協会)
飯塚 千恵里(飯塚千恵里照明設計事務所)
作品関係者:
事業主:
富岡市世界遺産観光部
建築設計:
株式会社森村設計

作品コンセプト:

 国宝旧富岡製糸場西置繭所(2014年に世界遺産一覧表に記載)は、翌2015年から6年の歳月をかけて保存修理及び整備活用工事が行われた。耐震補強鉄骨とガラスボックスが新たに設置された1階のギャラリーとホールでは、照明器具は来館者の目に触れない位置に設置するか、極限までグレアを抑えて目立たない様配慮した。建築の価値を維持・保存しながらさらにその魅力を引き出し、見学と鑑賞ができる空間の創出をコンセプトとした。

講評:

 日本の近代化を、機械による生糸の量産化と高い品質管理により、1987年の閉業までこの国を支えた拠点であったことから、2014年に世界文化遺産として登録され、その保存・公開のための保存整備工事に伴う照明デザインが評価された。

 国宝旧富岡製糸場西置繭所は、収穫された1年分の乾燥した繭を保管する、貯繭(ちょけん)のための、東西2棟のうち1棟の倉庫である。正門から敷地に入ると、まず外観を特徴づける木柱の構造と、煉瓦の壁が見えてきて、夕暮れ時にライトアップされた姿を想像させる。建物内へ入ると、「保存」のための耐震補強の鉄骨と、ガラスによって覆われた展示ギャラリーが現れる。さらに2階へ上がると、製糸場最盛期の姿に復原された展示空間を見ることができる仕組みだ。国宝の文化財建造物と、国産の製糸産業遺産の歴史を読み解くミュージアムとして、超高演色性能を有し、かつグレアを制御したスLED ポットライトを使用することで、良質な展示空間が生まれた。

(木下史青)

優秀賞:高輪ゲートウェイ駅

受賞者:
窪田 麻里(株式会社ライティング プランナーズ アソシエーツ)
中村 美寿々(株式会社ライティング プランナーズ アソシエーツ)
山本 雅文(株式会社ライティング プランナーズ アソシエーツ)
作品関係者:
事業主:
東日本旅客鉄道株式会社
プロジェクト統括:
東日本旅客鉄道株式会社 東京工事事務所
電気工事統括:
東日本旅客鉄道株式会社 東京電気システム開発工事事務所
デザインアーキテクト:
隈研吾建築都市設計事務所
建築設計・監理:
株式会社JR東日本建築設計

作品コンセプト:

 折り紙を模した大屋根が広々としたコンコースとホームを一体的に覆う駅舎は、近い将来、周辺大規模開発街区の中核となる。心地よい駅空間の創出と、新しい街のランドマークとなる光をめざした。

 障子をイメージした膜屋根により、日中は駅全体が柔らかな光に包まれ、日没後は徐々に内部から温かな光がこぼれでる。照度確保に特化した均一な照明ではなく、利用者がその瞬間を感じ取れるよう、時間に寄り添って変化する照明が必要であると考えた。開放的な建築空間を引き立てる照明計画と、利用者数と天候の変化を考慮して設定された調光調色の7つのシーンオペレーションによって、“新しい駅舎の光”を実現した。

講評:

 1971年に開業した西日暮里駅以来、およそ50年ぶりの山手線の新駅という非常に難しいプロジェクトである。この半世紀の間に、駅のあり方は大きな変化を遂げ、単なる交通施設から街との関係を再構築する拠点として位置づけられるようになった。本駅は、交通機能の本丸である1Fのホーム階、2F・3Fのコンコース・店舗、それを覆うETFEの幕屋根という水平な3層構造に対し、風雨を防ぐためのカーテンウォールが取り付けられているという構造となっているが、照明は、前者の3層を美しく浮かび上がらせることによって、あたかも街に開かれた屋根のある広場であるかのような、21世紀の駅のあり方を実現している。さらに、そのような光環境の文化的な意義だけでなく、自動的に制御される調光調色によって、人工環境と自然環境という認知の境界に対して揺らぎを与えるような仕組みであったり、幕屋根の大きな気積を体感できるホーム階の吹抜によって生じる天井高の違いを感じさせない安定的な光環境の実現など、高い技術水準も同時に評価された。

(川添善行)

入賞:嘉麻市庁舎

撮影:八代写真事務所

受賞者:
須田 智成(株式会社久米設計九州支社)
永野 孝之(株式会社久米設計九州支社)
福田 哲也(株式会社久米設計九州支社)
作品関係者:
事業主:
嘉麻市長 赤間幸弘
建築設計:
福田 光俊(株式会社久米設計九州支社)
清水 章太郎(株式会社久米設計九州支社)

作品コンセプト:

 熊本地震直後(2016年4月)に計画が始まり、合併特例債活用期限内(2020年3月)の竣工が求められた福岡県嘉麻市の新庁舎の計画である。この時代背景に対して実直に応答するため、安心・安全性確保とイニシャルコスト縮減を両立した合理的な建築のあり方を追求した結果、無駄なものが削ぎ落とされたコンクリートの「矩形」が残った。

 力強く美しい躯体を引き立たせる光環境を形成し、建築コンセプトを純化させることを意図した。

講評:

 クリア塗装の打放しRC直天井にぼんやりと映る外光や人工光は、利用者の外部との繋がり感や開放感を高めるとともに、室奥から見た窓面と室内表面との輝度対比を緩和し窓面のまぶしさを低減する。また、西日対策機能を持つ縦軸木ブラインドは夜間に適度な明るさにライトアップされ、昼夜の建物正面の外観を効果的に印象づけている。公共建築として簡素でありながら、建築と一体としてデザインされ、良質な光環境が実現されている。

(原直也)

入賞:ののあおやま

受賞者:
窪田 麻里(株式会社ライティング プランナーズ アソシエーツ)
岩永 光樹(株式会社ライティング プランナーズ アソシエーツ)
永田 恵美子(株式会社ライティング プランナーズ アソシエーツ)
作品関係者:
事業主:
青山共創株式会社
山下 文行(東京建物株式会社 住宅賃貸事業部賃貸住宅事業推進グループ)
弘中 陽介(三井不動産株式会社 開発企画部開発企画グループ)
中村 達也(三井不動産レジデンシャル株式会社 賃貸住宅事業部事業室)
建築設計:
田村 慎一(鹿島建設株式会社一級建築士事務所)
デザイン監修:
隈 研吾(隈研吾建築都市設計事務所)
ランドスケープデザイン監修:
平賀 達也(ランドスケープ・プラス)

作品コンセプト:

 青山の森に「安全な明るさと快適な暗さの共存」を目指す光環境が出現した。高層住宅やサービス付き高齢者住宅、保育園、店舗が入った低層建築を、約3,500 ㎡の緑やビオトープを小径で繋ぐ大規模緑地が囲み、豊かな自然が生きる青山の生活環境を形成している。建築とランドスケープのデザインと一体化し、光環境を同次元で設計することにより、「ののあおやま」の夜景は青山の文化と品格を表現しブランド化することに成功した。

講評:

 豊かな緑とビオトープのある青山の森に「安全な明るさと快適な暗さの共存」を図り、ボラードとポールスポットで安全のための足元明かりを確保し、視点のポイントとなる樹木とビオトープに光を絞ることで、森に快適な暗さを作り出している。「暗さのデザイン」であるとも言える。建築とランドスケープを光で繋ぎ、敷地全体に一体感を作り出しながらも、それぞれの光は細部まで練られており、上質で心地よい空間に仕上げられている。

(原田武敏)

入賞:大正大学8号館

撮影:株式会社エスエス東京

受賞者:
堤 裕二(株式会社大林組 設計本部 建築設計部)
佃 和憲(株式会社大林組 設計本部 建築設計部)
小山 岳登(株式会社大林組 設計本部 設備設計部)
作品関係者:
事業主:
学校法人 大正大学
照明設計:

猪股 寛(パナソニック株式会社 ライティング事業部)

作品コンセプト:

 図書館やラーニングコモンズを核とする学修拠点に、地域交流を促すブックカフェ等を加えることで、地域に根差し、ずっと居たくなる学びの場となることを目指した。自然光が降り注ぐ日中から、日没とともに間接照明による落ち着いた空間へと時の移ろいを感じることができる。仏教由来のある七宝繋ぎから着想を得た七宝パネルが行燈のように、建物内や地域を照らし、仏教精神を基調とする大学のアイデンティティを体現させた。

講評:

 七宝紋様のスチールパネルに包まれた外装はシャンパンゴールドで彩られ、昼は明るく煌びやかな印象を受ける。しかし夜、七宝紋様の背後に仕込まれた明かりが灯ると、外装の色は闇に消え、仄かに灯る行燈のような姿へと変わる。昼と夜の表情の違いが印象的である。館内もトップライトによる昼光やベース照明のある昼のシーンから間接照明が浮かび上がる夜のシーンへと移り変わる等、細やかな光の配慮が行われている点も評価された。

(原田武敏)

審査員特別賞:熊本城特別見学通路

撮影:益永研司写真事務所

受賞者:
塚川 譲(株式会社日本設計九州支社)
鬼木 貴章(株式会社日本設計九州支社)
岩永 朋子(株式会社遠藤照明)
作品関係者:
事業主:
熊本市

作品コンセプト:

 被災した城内に点在する歴史の遺構や震災での崩落箇所、既存樹木を避け、針の穴ほどの空間を繋ぎ合わせて行く作業を繰り返すことで創られた全長350m、高低差21mの一筆書きの柔らかな弧を描いた見学通路。熊本城の環境と一体となった佇まいを目指すため、そのダイナミックかつ繊細な流れを、途切れることのない連続した光で照らすことで、その形状や構造の美しさを表現し、建築同様に熊本城の夜景に寄り添う照明デザインを目指した。

講評:

 見学通路全長350mの照明デザインは、通路片面に配置されたライン照明で構成され、その光が檜のデッキ床面を柔らかく照らしている。反射光が対面の欄干部の白いフェンスに反映し、高低差21mの空中歩廊がまるで光により浮遊しているような印象を与えている。ライトアップされた熊本城と光の対比を上手く構成させており、これから先、長きに亘って復興工事を続ける熊本城跡へ優しく寄り沿った心に響く光環境が創出されている。

(松下美紀)

2020年 照明デザイン賞 講評

総評

応募総数は52作品で1~2次審査を経て現地審査対象となったのは11作品。審査員(2名ずつ)が各地に赴き関係者の説明を受けながら審査を行った。今回は外部から審査員を迎えたことで照明デザインの間口や奥行をさらに広げることができたのではないだろうか。最終審査では活発な議論が交わされ厳密かつ十分な選考過程を経て、8作品が受賞の栄誉に浴することとなった。どの作品も明確なテーマと優れたデザイン性を有し、これからの照明に新たな視座を与えるものであった。

(審査員長 富田 泰行)

最優秀賞:武蔵野美術大学 ZERO SPACE

撮影:NACASA&PARTNERS INC.

受賞者:
山下 裕子(Y2 LIGHTING DESIGN Co., Ltd.)
作品関係者:
事業主:武蔵野美術大学
デザイン:五十嵐 久枝(イガラシデザインスタジオ)稲垣 竜也(イガラシデザインスタジオ)
施工:清水建設

作品コンセプト:

 「ZERO SPACE」は武蔵野美術大学内にあり、進路のWEB検索スペースから、多様な用途に対応できる「場」へのコンバージョンである。東西2面が35mのガラスで外光がたっぷり入るコンクリート建築の1階。 外の景色が素通しで、開放的だが通路の様に無意識だった空間を、「場」として意識する仕掛けとして、天井のあり方を検討し、白い“ゼロ”を浮かべた。アートやデザインを学ぶ学生達に向けて、アイディアが誕生する「始まりのゼロ」という想いの形でもある。“ゼロ”はスケルトンの黒天井を背景に、グレアレスな人工光と自然光の床反射を受け、自身が発光している様な視覚効果で空間の核になっている。また照明回路をゼロの内と外、配置をゼロに沿わせ、大きな「光のゼロ」のバリエーションで4シーンを構成し、自然光の変化に合わせてゆっくりチェンジさせ、時間を持つ空間にした。美大らしい新しい創造空間の「場」として運用されている。

講評:

 ブラック&ホワイトのコントラストがひと際目を引くフォトジェニックな空間である。それが現地に行くと単なる写真映りのよい作品でないことに気づかされた。一見では照明器具が見えないのにゼロ天井と石ころベンチが発光して見える。この場所はかつてMACが列を成して置かれていた学生達の情報拠点であったがいつしかその役目を終え、ZEROという始まりを予感させる学びの場の象徴空間へとコンバージョンされたのだ。光を帯びた天井形態は誰がどのように決めたかが現地審査で話題になった。かなりの紆余曲折があったようである。空調など設備との取り合いや限られた予算に加え、場所の意味性に基づく明快で大胆な表現の追求などさまざまな議論の末に生まれたカタチであった。低予算を嘆く割には器具取り付けや配光制御、運用に工夫が見られたのも高い評価につながった。このシンプルで大胆なコンバーションの光は最高得点を集め審議でも多くの評価を獲得し最優秀の栄誉に輝いた。

(富田 泰行)

優秀賞:谷口吉郎・吉生 記念金沢建築館

撮影:YAMAGIWA(撮影:大川 孔三)

受賞者:
谷口 吉生(株式会社 谷口建築設計研究所)
岩井 達弥(岩井達弥光景デザイン)
作品関係者:
事業主:
山野 之義(金沢市)
建築設計:

荒川 照陽(株式会社 谷口建築設計研究所)
木藤 美和子(株式会社 谷口建築設計研究所)
設備設計:
松本 尚樹(株式会社 森村設計)
照明設計:
石井 孝宜(岩井達弥光景デザイン)

作品コンセプト:

 金沢出身の著名建築家谷口吉郎氏ゆかりの地に建設された、建築・都市に関するこのミュージアムは、様々な活動を通じ、世界へ建築文化の発信拠点を目指している。
建築の歴史と現在そして未来をつなげる光を、吉郎氏設計の迎賓館別館游心亭をLEDで再現した常設展示室の光、最新の技術で様々な企画展に対応する企画展示室の光、そしてそれらを包み込む長男吉生氏の建築が纏う光の三つの光によって実現した。

講評:

 日本を代表する建築家谷口吉郎氏・谷口吉生氏親子の住居跡に建つ、建築・都市の様々な活動を金沢から世界へ発信する建物である。設計は谷口吉生氏。1階の企画展示室では、主照明に様々な展示に対応出来る多機能スポットライトを採用し、ベース照明と主照明用ライティングトラックを28mm幅のスリットに納めてスッキリした天井面を作り出すことに成功した。2階の常設展示室では、谷口吉郎氏の代表作の一つ、迎賓館赤坂離宮和風別館「游心亭」の広間と茶室で使われていた白熱灯や蛍光灯の照明をLEDで忠実に再現し、谷口吉郎氏の明るさや照明に対する考え方を、来場者が直接体感できる空間となった。今回新たに庭の水盤に映り込む植栽の照明と茶室待合の障子の竹の葉陰の演出を加えることで、金沢でしか味わえない景色を作り出した。ロビー内部からのもれ光を生かした建物外観照明は、この建築館を歴史的街並みの中に穏やかに溶け込ませる役割を果たしている。

(近田 玲子)

優秀賞:ショウナイホテル スイデンテラス

撮影:平井 広行

受賞者:
岩井 達弥(岩井達弥光景デザイン)
作品関係者:
事業主:
YAMAGATA DESIGN 株式会社
建築設計:
坂茂建築設計
構造・設備設計:
Arup
ランドスケープ:
オンサイト計画設計事務所

作品コンセプト:

 本施設は、新産業創出を目指すベンチャー企業等が研究活動を進めるサイエンスパークにおける、地元と来訪者を結ぶ宿泊、飲食、温浴、文化、育児の施設整備計画である。
庄内の美しい原風景である水田に優しく挿入された建築が、やわらかい光を纏い水田に浮かぶ光景を基本イメージに、間接照明の光で建築を表現し、四季折々の水田風景との調和をはかり、やすらぎの空間にふさわしい、人によりそう光環境創出をめざした。

講評:

 水鏡という手法がある。宇治の平等院鳳凰堂がその代表例である。建物が水面に反射して生じる実像と虚像が醸し出す浮遊感のある風景が私たちを不思議な感覚に誘う。

平等院鳳凰堂が意図したのは<西方極楽浄土>だったそうだが、スイデンテラスの場合も、<水田>に見立てられた大きな水面の中央の<アゼミチ>(に見立てられたメインアプローチ)を辿る中で、異空間への到達が準備される。優れた宿には川のせせらぎや潮騒の音あるいは山の眺望など宿泊者を日常生活から離脱させる<設え>が不可欠なのである。

水鏡―反射のデザイン原理は照明デザインでは間接照明という手法で表現される。間接照明による光の反射で照らし出された天井や壁面からのほのかな光は建築空間を浮かび上がらせる。宿泊フロントやレストラン、ライブラリーが配された共用棟では切妻屋根の構造体のシルエットを浮かび上がらせるし、浴室棟では野趣あふれる屋根構造がマニエリスムの館、パラッツォ・デル・テに紛れ込んだかのような錯覚をもたらす。間接照明はコンビニのフラットな照明に慣れた目にはほの暗く感じられるかもしれないが、谷崎潤一郎の「陰翳礼讃」を持ち出すまでもなく、ほの暗さは日本文化の伝統に内蔵されていたものではないだろうか。

(渡辺 真理)

優秀賞:The Okura Tokyo

撮影:佐藤振一写真事務所

受賞者:
面出 薫(株式会社 ライティングプランナーズアソシエーツ)
田中 謙太郎(株式会社 ライティングプランナーズアソシエーツ)
岩永 光樹(株式会社 ライティングプランナーズアソシエーツ)
作品関係者:
事業主:
梅原 真次(株式会社 ホテルオークラ東京)
建築・ID・ランドスケープ:
谷口 吉生(谷口建築設計研究所)
インテリアデザイン:
Terry McGinnity(GA design)
建築・ID・ランドスケープ:
田口 晃(大成建設一級建築士事務所)
インテリアデザイン:
若本 俊幸(株式会社 観光企画設計社)

作品コンセプト:

 2019年9月にThe Okura Tokyoとしてリニューアルオープンしたこのプロジェクトでは、「究極の和風」と「現代の快適性」の融合をコンセプトに照明計画がされた。特徴的なオークラロビーは忠実に再現されLED光源によって柔らかな光環境を見事に現代に蘇らせた。車寄せとなるオークラスクエアでは水盤に映り込むプロムナードスクリーンの間接照明と柳の木のライトアップが印象的な景色を浮かび上がらせている。

講評:

 建築的、社会的にも注目度の高い日本を代表する本ホテル改築計画には、建築やインテリアさらにランドスケープそれぞれに高品質なデザインが求められた。おのずとそれらの照明デザインにも求められた高いデザイン性と完成度の期待に応え、目標とする空間の光環境を完成させたことは高い称賛に値するものである。

 伝統の継承と現代技術への移行という理念のもと、「究極の和風」実現のための課題として、豊富な光の階調、柔らかな輪郭の陰影、自然光の移ろいに呼応、やすらぎの演出、自然光に倣った光をかかげ、それらを見事に成し遂げると同時に、「現代の快適性」を適切なLED化と制御ダイアグラムによって実現させた。また、ホテル特有の多様な業種や空間種別に対し、緻密で繊細な対応を行い、最終目標であるお客様本位の高品質なホスピタリティーの光環境が作り上げられたことは、照明デザインに携るプロフェッショナルの手本とすべき業績である。

(岩井 達弥)

入賞:ミライon(長崎県立長崎図書館及び大村市立図書館、大村市歴史資料館)

撮影:中村 絵

受賞者:
牛込 具之(株式会社 佐藤総合計画)
石原 広司(株式会社 佐藤総合計画)
武石 正宣(ICE都市環境照明研究所)
作品関係者:
事業主:
長崎県、大村市
電気設計:
関根 秀幸(株式会社 佐藤総合計画)
建築設計:
佐々木 信明(株式会社 INTERMEDIA)

作品コンセプト:

 長崎県大村湾を臨む敷地に建設された図書館である。 緩やかな湾型平面と段々状に重なる書架閲覧エリアを、一つの大屋根で包込む建築計画を意識しスーパーアンビエント&ヒューマンタスクの光環境を計画した。スーパーアンビエントは大きな間接照明で柔らかな表情の大屋根天井を見せることを考え、ヒューマンタスクは書架と一体化させミニマムかつパーソナルな光とした。

小さな光で長崎の夜景のような光景を創出し、同時に図書館で国内初のZEB-Readyを実現した。

講評:

 一枚の大屋根に包まれた開放的な空間でありながら、「本を読む」のみならず、本との「出会いの居場所」を、大小の空間構成と照明手法によって創出している。日変化で移り変わる自然光を、南面するエクステリアの芝に覆われた地面に反射させたガラスウォールから採り込み、大屋根の間接照明が心地よい、新しいタイプの図書館建築といえよう。閲覧室では、書棚用のカワイイ特注器具の輝度が、文字と触れる楽しみを演出している。

(木下 史青)

入賞:環長崎港夜間景観整備 平和公園地区

撮影:株式会社 ライティングプランナーズアソシエーツ

受賞者:
面出 薫(株式会社 ライティングプランナーズアソシエーツ)
中村 美寿々(株式会社 ライティングプランナーズアソシエーツ)
木村 光(株式会社 ライティングプランナーズアソシエーツ)
作品関係者:
事業主:
長崎市

作品コンセプト:

 国際平和都市・長崎を象徴するこの場所では、「祈りの感情をいざなう」静謐な景色をつくることを目標とした。 整備後の広場では、緑を背景に照らし出された祈念像に向かって、足元に埋め込まれた光の粒が輝く、鎮魂と祈念の感情を導くような祈りの景色が生まれた。

 公園内の平和の泉、原爆落下中心地、近隣の子供たちが通う山里小学校、平和祈念館の重厚感ある建物といった周辺施設も、地区全体で合わせて整備が行われ、静けさや祈りを思わせる佇まいとなっている。

講評:

 平和を祈念する場所である長崎の平和公園及びその周辺施設を一体的に整備する夜間景観整備のプロジェクト。全体的に照度を抑えた落ち着いた空間となっているが、平和公園では、祈りの先へと人々を導く路面の光ファイバー照明、細やかな光で制御された平和記念像、その背景となる樹木、と祈りをいざなう強弱のある光が丁寧に重ねられている。この場所が静かな祈りの空間であることを自然と光で感じることができる点が評価された。

(原田 武敏)

入賞:富山銀行本店

撮影:日建設計

受賞者:
江里口 宗麟(株式会社 日建設計 設計部門 設計グループ)
上野 大輔(株式会社 日建設計 エンジニアリング部門 設備設計グループ)
佐々木 泰和(株式会社 YAMAGIWA 東日本PDC)
作品関係者:
事業主:
中沖 雄(株式会社 富山銀行 取締役頭取)
建築設計:

塩田 哲也(株式会社 日建設計 設計部門 設計グループ)
河辺 伸浩(株式会社 日建設計 設計部門 設計グループ)
大西 由希子(株式会社 日建設計 設計部門 設計グループ)
コンサルティング:

野村 芳和(株式会社 YAMAGIWA 中部支店)
清水 良一(株式会社 YAMAGIWA 金沢営業所)

作品コンセプト:

 『駅前空間に賑わいをもたらし、街の顔となるライトアップ』をコンセプトとした富山銀行新本店のファサード照明である。

 富山の自然や四季、高岡の伝統行事や文化からインスピレーションを受けた演出がプリセットされ、その内容とともに見上げる位置や角度によっても、その表情を豊かに変化させる。

 また、県と市と共に官民一体となって行った、約1年にも渡るデザインプロセスを通して、街の象徴となるライトアップを目指した。

講評:

 高岡駅前の賑わい創出に本ライトアップ計画が担った役割は大きく、かつ景観というデリケートな課題をクリアするため、施主、設計者、メーカーだけでなく行政も参加しOne Teamで取り組んだ好例といえる。このようなメディアファサードは、大型ビジョンや電飾サインとの区分けがよく論議されるが、本件は建築的特徴とよく調和し、環境装置としての位置付けをスケジュールやコンテンツの吟味によって貫いていることが大きく評価できる。

(岩井 達弥)

審査員特別賞:京都経済センター

撮影:株式会社エスエス大阪 左海 一郎

受賞者:
入江 俊介(大成建設 株式会社)
西崎 暢仁(大成建設 株式会社)
坂下 泰士(大成建設 株式会社)
作品関係者:
事業主:
野瀬 兼治郎(京都経済センタービル管理組合)
建築設計 :

内藤 多加志(大成建設 株式会社)
高岩 遊(大成建設 株式会社)
設備設計 :
根本 昌徳(大成建設 株式会社)

作品コンセプト:

京都の中心地である四条室町にふさわしい京都創生のシンボルを創出した。夏の訪れを告げる祇園祭の山鉾が建ち並び風情ある街へと変容するこの地に、柔らかでありながらも存在感を魅きたたせる「行灯」のような建築を目指した。京町屋の店先から漏れる灯りの温かさを創出する為、建築と設備を融合し具現化した。また色温度を山鉾の提灯と合わせることで、あたかも昔から建っていたような建築を目指した。

講評:

京都中心部の街角に建つこの施設の照明は、日常に限らず祇園祭に相応しい街並みを創出する。二つの通りに面した回遊バルコニー上部の軒を想起させる水平に配した木肌をほんのりと街中に浮かび上がらせ、祭期間中は四条通面の照明が行灯のように街を照らす。かつての連なる軒先が形成した整然とした水平基軸の街並みを、混沌とした現代にささやかではあれ確かに蘇らせており、京都の町や照明デザインの行方を照らすかのようである。

(原 直也)

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