「有機半導体」の概念を初めて提唱した故井口洋夫博士の広範な業績を後世に伝えるとともに、多くの研究者の成果の発信源、情報ネットワークのハブとなる場として計画された施設である。「知のスパイン」(※スパインとは背骨の意味)としての明確な軸構成を建築に与え、豊田理化学研究所だけでなく、豊田中央研究所も含めた施設全体の新しい顔、叡知のコアとなることを目指した。また豊かな里山植生に抱かれ、江戸時代より谷津棚田の水源として利用されていた深田池に隣接するという計画地の特徴を生かし、既存環境へのインパクトの小さいリニアな建物外形としている。照明計画は、建築においては軸構成をより明確にし、外構においては既存の木々を照らして豊かな既存環境を体験できるようにしている。
知の拠点となるギャラリー回廊の壁面を、アーチ状の配光をリズミカルに配置した屋内型LEDグレアレスユニバーサルダウンライトと、防水パネルに工夫を加えた屋外型LEDダウンライトで照らすことで、夜間のファサードを美しく演出している。周囲の既存森林の優しいライトアップと、建物と池の水面に逆さに映り込む建物が演出効果を際立させている。研究者の晴れの舞台である登壇部のRa97のLED調光ユニバーサルダウンライトの採用や、会議室の自然光と人工照明の間を建築間接照明でシームレスに繋げた手法もよい。