昭和9年に設立された甲南病院(令和元年 甲南医療センターに改称)は、90年近く神戸市東部の基幹病院としての役割を果たしてきている。病院の中心施設であった近代建築の旧本館は、開院から長らく地域に親しまれて存続してきたが、施設全体にわたる建替事業が行われた。
建築デザインは、高低差の大きい地形を生かした分灯配置によるヒューマンスケールで連続的に緑や景色が垣間見える建物構成とし、旧本館の歴史(記憶)を感じる空間を継承しつつ、現代にアレンジした意匠を取り入れた。建築デザインに呼応させた照明計画は、緑豊かな外部からもたらされる自然光を生かし、穏やかな光をたたえる間接照明の配置や、旧本館の記憶を想起させる器具を採用することで、訪れる人に落ち着きと親しみを感じさせている。
歴史の継承をコンセプトに既存再生器具を効果的に新しい建築空間に融合させている。利用者に配慮した深いグレアの排除や、安らかな空間づくりにより居心地の良い療養空間の形成に成功している。