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屋内大空間の照明

1.はじめに

 屋内大空間とは、どのような空間をイメージされるでしょうか。スポーツ競技やイベント施設のドーム空間、メインエントランスなどに配されるアトリウム空間、劇場空間、展示場空間、空港のチェックインロビーなどが代表的なところでしょう。さて、これら施設の照明の共通項はなんでしょうか。ちょっと変わった視点、計画手法や計画ツールの切り口で考察してみたいと思います。

2.照明設計における課題

 どのような施設であれ、計画に際しての設計要件は設計条件あるいは基準、使い手のリクエストなどで存在します。時にそれは、床面や空間、鉛直面の照度であったり、空間の輝度バランスであったり、演色性であったりします。また、その建物固有の照明の設置可能位置や、自然採光の有無などがあります。
 これらは、ばらばらな要素ではなく、ひとつの施設を構築するための要素であり、建築計画のストーリーに合致していなければなりません。これらは建築デザインからの課題と、機能・性能からの課題に大別できますが、特に屋内大空間の場合、空間ボリュームの大きさに絡む省エネ性や保守性、安全性、用途によっては多目的性をデザイン、機能・性能の両側面からいかに成立させるかが大きな課題であり特徴であるといえます。また、事務所空間のように明確な基準の整備もされていないため、光環境を予測、評価することも重要になってきます。では一見煩雑に存在する課題をひとつのストーリーにのせるか、こまつドーム、札幌コミュニティドーム、さいたまスーパーアリーナ、札幌ドームでの例を交えて考えてみます。

3.設計におけるコミュニケーション

 デザインと機能・性能の両側面からシステを構築しようとしたとき、そこに関わる設計関係者それぞれのモチベーションを共通の課題として顕在化させるコミュニケーションが重要になります。  これはデザイン(定性)領域とエンジニアリング(定量)領域を橋渡しする共通的な表現で解決できないでしょうか。
例えば、模型やコンピューターグラフィックス(CG)の表現力を使ってコミュニケーションすることもひとつです(図1図2)。これは従来行われてきた手法ではありますが、一歩進めてインタラクティブ性(相互作用、対話)を重視することでその効果は飛躍的に高まると考えられます。

図1 照明器具配列の検討例

図1 照明器具配列の検討例

照明器具の配列は、空間デザイン上重要な要素である。
さいたまスーパーアリーナにおける設計調整に用いた検討例。

図2 ライトアップの検討例

図2 ライトアップの検討例

ライトアップは、デザインイメージをエンジニアリングで具現化する。
設計初期段階からの設計調整が不可欠。こまつドームでの検討例。

4.インタラクティブ(相互作用する対話型)な設計ツール

 従来のCGによる照明検討は、結果の確認として利用することが多く設計ツールとしての機能は発揮できていませんでした。これはシステムの問題ではなく、使い方の問題です。  設計初期段階では多数の試行モデルを用いてボリュームや配置の検討を行います。この段階では、照明器具の配光や照度の検討より、ラフなモデルでラフな照明(限られた配光)を用いて数多く検討を行うことが重要となります。このためには、インタラクティブに設計ツールであるCGを運用するノウハウを構築することがカギとなります(図3)。

(a)全ての光の要素を入れた最終段階の検討例

(a)全ての光の要素を入れた最終段階の検討

(b)企画(コンペ)段階の検討例

(b)企画(コンペ)段階の検討例

(c)部位ごとの詳細検討例

(c)部位ごとの詳細検討例

図3 インタラクティブな設計ツール

設計経過(企画~基本設計~実施設計)とともに
検討深度を深めていった。
さいたまスーパーアリーナにおける検討例。

5.評価機能をもった設計ツール

 照明設計において空間を評価するひとつの指標として照度や輝度があります。また、数値計算としてもパソコンの普及とともに当然のように行われています。しかし、これらの結果をどう評価するのかは屋内大空間の場合、評価指標の未整備や計算量の問題から特別な場合しか検討されていませんでした。
 例えば野球場におけるボールの見え方などです(図4)。今後、このような評価指標の確立や評価機能をもった設計ツールが、多様なニーズに対応するあるいは高品質な光環境の追求に重要な要素となります。

図4 野球のボールの見え方評価例

図4 野球のボールの見え方評価例

野球などの球技場ではボールの見え方が、施設の性能そのものを左右する重要課題である。
札幌コミュニティドームでの検討例。

6.表現力の豊かな設計ツール

 高い品質の光環境空間とは、さまざまな切り口から評価しすべてにおいて万全なものをいうのでしょう。このためには、設計段階で多角的な視点から予測検討するこのが不可欠です。例えば球技施設としての屋内大空間では、床面の照度分布(図5)、均斉度のほか、空間、鉛直面の照度分布、グレア評価などさまざまな角度から、また三次元解析ならではの表現力による検討が必要です。直射日光の入射範囲検討の例を図6に示します。

図5 空間(鉛直面)照度分布の解析例

図5 空間(鉛直面)照度分布の解析例

空間(鉛直面)照度の概念は、大空間施設に特徴的なものである。
CGならではの表現方法といえる。

図6 自然採光(直射)の入射範囲の解析例

図6 自然採光(直射)の入射範囲の解析例

自然採光計画は、建築計画と照明計画の両面からの検討を要する。
さいたまスーパーアリーナで自然採光の入射範囲を時系列で表現した例。
この解析結果に基づいて、空調計画も含めた日射制御が検討された。

7.おわりに

 今回、屋内大空間に限定して考察してみましたが、こと照明設計手法やそのツールに関してはどのような空間、施設に関しても同じことがいえます。多角的に捉える設計技術者の目により評価や表現において課題が提示され、それを解決し設計ツールに組み込むことの繰り返しにより、生み出される空間の独創性が高まることでしょう。

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